運動

「腸内環境を整えるには食事が大事」というのは、多くの人が知るところですが、「運動が腸内環境に大きな影響を与えている」という事実は、まだ意外と知られていません。運動と腸内細菌は一見まったく関係がないように思えますが、最新の研究では、運動が腸内細菌の多様性を高め、健康を支える善玉菌を増やすという報告が数多く発表されています。
本記事では、運動が腸内環境に与える影響、過度な運動の注意点、さらに運動がもたらすその他の健康効果について、最新の知見をもとに丁寧に解説していきます。
■ 運動が腸内細菌の多様性を高める

多くの研究で示されているように、運動を習慣的に行っている人は腸内細菌の多様性が高い傾向があります。腸内細菌の多様性とは、腸内に存在する菌の種類の豊富さのことで、健康維持にはこの「多様性」が非常に重要だと言われています。
特に運動を行うことで善玉菌が増え、それによって短鎖脂肪酸(たんさしぼうさん)と呼ばれる物質が豊富に作られるようになります。短鎖脂肪酸には以下のような働きがあります。
まさに、腸にとっては“いいことづくめ”と言える物質です。
さらに興味深い研究では、善玉菌が運動後に体内に蓄積した乳酸を利用して短鎖脂肪酸を産生しているという報告もあります。つまり、運動によって生まれる乳酸が、腸内環境改善の材料になっているということです。
■ 腸内環境は運動と食事の「どちらが改善するのか」

「運動する人はもともと健康意識が高いから、腸内環境が良いのは食事のおかげでは?」という意見もあります。確かに、運動を習慣にしている人は食生活にも気を付けていることが多く、腸内環境が良好なのは食事の影響だという見方もあります。
しかし、運動と食事はそれぞれ独立した要因として腸内環境に影響を与えるという研究も複数存在します。つまり、良い食事をしていても、運動を取り入れることで腸内環境はさらに良くなるということです。
実際、アスリートの腸内には「酪酸菌(らくさんきん)」と呼ばれる善玉菌が多いことが報告されています。酪酸菌は健康の維持、炎症の抑制、免疫力向上などに寄与する重要な菌です。運動量の多いアスリートの腸内環境が優れていることは、この点からも裏付けられています。
■ 過度な運動は逆効果になることも

ただし、運動には適度な量があります。アスリートは腸内環境が良い一方で、過度な運動によって活性酸素が過剰に発生し、免疫力が低下することも指摘されています。試合前や大会直前に風邪を引きやすいのはそのためです。
活性酸素の蓄積は肌の老化も促進します。特にマラソンなど長時間の有酸素運動を続けているランナーに、シワや肌の艶の低下が見られることもあります。運動が健康を支える一方で、「やりすぎ」は身体に負担をかけるということを忘れてはいけません。
日常生活で運動を取り入れる場合は、“続けられる範囲で適度に”行うことが最も効果的です。
■ 筋肉が分泌する「マイオカイン」と大腸がん予防

運動には、腸内環境以外にも見逃せない健康効果があります。近年注目されているのが、筋肉が運動によって分泌する「マイオカイン」と呼ばれるホルモンの存在です。マイオカインは30種類以上存在し、免疫力向上、代謝改善、炎症の抑制など、多岐にわたる作用を持つことが分かっています。
その中でも特に注目されているのが「SPARC(スパーク)」という物質です。このスパークは、大腸がんの発症リスクを確実に下げる可能性があるとされており、がん研究の分野でも重要視されています。ある研究機関は「生活習慣の中で、大腸がんのリスクをほぼ確実に下げると断言できるのは運動だけ」と発表しているほどです。
推奨されている運動量は、軽く息が上がる程度の運動を1日60分、週3回。ただし、忙しい日常では60分の運動を継続するのは簡単ではありません。30分の早歩きでも十分に効果は期待できますし、通勤時に歩くペースを少し速めるだけでも立派な運動になります。
■ 疲れたときこそ運動が効く

「疲れたら休む」というのは間違いではありませんが、実は“軽く体を動かす”ことが疲労回復やストレス軽減につながることが科学的に確認されています。同じ行動を続けていると脳が疲れやすくなりますが、運動のようにまったく違う行動に切り替えることで、ストレスが解消されやすくなるのです。
一方で、「疲れたからお酒を飲んで寝る」という習慣は、残念ながら疲労回復には効果がありません。アルコールは一時的に快感をもたらしますが、翌朝の疲れはそのまま残ります。これに対して軽い運動は、心身をリセットし、ストレスを翌日に持ち越さない手助けをしてくれます。
家の周りを少し早歩きするだけでも、気持ちがスッと軽くなるのを感じるはずです。

腸内環境を整え、免疫力を高め、さらに大腸がんの予防まで期待できる運動は、健康への投資として最も身近で確実な方法のひとつです。ただし、過度な運動は逆効果になることもあるため、無理なく続けられるペースで行うことが大切です。
今日からできるのは、
・通勤中の早歩き
・家の周りを10分歩く
・軽い筋トレを取り入れる
といった簡単な習慣です。
腸を整え、心身のストレスを軽減し、将来の病気リスクを下げる――これほど多くの恩恵をもたらす行動はそう多くありません。
ぜひ、あなたも日常に「適度な運動」を取り入れて、より健やかな毎日を育ててみてください。